近代建築の五原則
年末にヨーロッパを建築行脚してきたMさんが,先の月曜塾例会で撮ってきた写真を見せてくれました.その中にあったひとつがル・コルビュジエ設計の「サヴォア邸」でした.写真を見ながら,かつて大学に入って間もない頃,この住宅(正確には別荘)のスライド写真を見せられて「近代建築の5原則」について教わったことを思い出しました.おそらく建築を学ぶほとんどの学生が同じような体験をしていると思います.
「近代建築の5原則」とは「ピロティー」,「屋上庭園」,「自由な平面」,「横長の窓」,「自由なファサード」です.一般の方には何が何だかよくわからないと思いますが,要はそれまでのヨーロッパにおけるレンガや石を積み上げた伝統的な組積造の建築ではできなかったことで,産業革命以後の技術革新における鉄骨造や鉄筋コンクリート造によって建築的に可能になったことを5つあげたということだと思います.
画像はル・コルビュジエが都市計画をしたインドの都市・チャンディガールです.
ル・コルビュジエの唱えた近代建築には,世界中どこであっても同じスタイルの建築といった指向がありましたが,この5原則のバックグラウンドには色濃くヨーロッパの伝統があったという意味ではかなりローカルな考えでもありました.なぜなら日本の伝統的な木造の軸組工法ではこの5原則をもともと達成していたとも言えるからです.「屋上庭園」だけは日本の伝統的な建築にも無かっただろうといわれるかもしれませんが,藤森照信さんによると茅葺きに屋根の上にいろいろな植物を植えていたようなので,これが屋上庭園のようなものだということだと言えなくもないと思います.そもそも「原則」といわれるとどうしてもそうしなければならないことのように感じてしまいますが,本来は「こんなこともできるようになりましたよ」くらいのことなんだと思います.
チャンディガールはインドの北西部・パンジャブ州の州都です.そこに州政府の一連の建物があるのですが,コンクリート打ち放しのそれら「近代建築」はどうにも救いがたく殺伐としていました.このあたりはほとんど砂漠と行ってもいいような風土で,そこに色のないコンクリートの建物ではあまりにも寂しすぎます.さらに近代的な建物と道路の合間を行き交っているのがよれよれのオート三輪や自転車ばかりで,そのミスマッチばかりが目に付きました.
日本には国立西洋美術館というル・コルビュジエ設計の建物があります.緑濃い上野の森の中ではコンクリート打ち放しの建物もまだなじめますが,砂漠の中のそれはどうにも寂しすぎました.結局建築は場所を選ばない汎用的なものではなく,その風土気候に合った表現でなければならないものなのだと思います.
よっぽどの建築オタクでなければ訪れることのないチャンディガールですが,ロックガーデンという公園は楽しいです.石やその他の廃材で作られた人間や動物の人形が並ぶ公園です.無味乾燥なインターナショナルなものより,ちょっと怪しげだけどその土地独自の土着なものの方が楽しいものです.