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2007年04月30日

食品庫

北海道は山菜の採れる季節になりました.今は山菜の王様といわれる「行者ニンニク」,そのあとはウドやフキ,ワラビさらにはコゴミやタラノメ,クレソンなども採れます.
都会を離れ田舎暮らしをする人が増えています.私もこれまでたくさんのそうした北海道へ移住してくる方々の住まいづくりをお手伝いしてきました.田舎暮らしの住まいによく提案するのが食品庫です.週末にちょっと離れた街の大きなショッピングセンターに行って食品を買いだめし,それらを保管しておく場所,さらには季節にたくさん採った山菜などを塩漬けして長期保存する場所,そんな使い方で田舎暮らしには便利です.最近の寒冷地住宅は家全体をあたためますが,食品庫だけは暖房を入れずにすこし涼しくします.画像の食品庫は病院などで使う平底の流しを付けました.採ってきた山菜の下洗い等,いろいろな用途に使えます.
食品庫には魚介類などを冷凍保存する冷凍ストッカーもおけるようにしてあります.あるいはゴミ置き場としても使えます.
食品庫

食品庫平面図
この家のように台所に隣接していると同時に玄関から直接入れるようにすると便利です.食品以外にもアウトドア関連の諸々を収納する物置的使い方ができます.

私も何度か山菜採りに行ったことがありますが,あの自分の手で収穫した時のうれしさというのは太古からDNAに記憶された本能的なもののような気がします.もちろん,持ち帰ったあとの食べる楽しみもあります.ただ,山菜の多くは下処理がなかなか面倒ですが.

田舎暮らしの楽しみは,山菜採りや自家菜園での野菜作り,あるいはガーデニングなど屋外での活動が主になります.そんな場合,食品庫のような収納スペースを設けるとより暮らしが便利になると思います.

2007年04月12日

地産地消への取り組み

先にご案内していた「地材地消モデル住宅」の見学会は無事終了しました.私は当日,今回の取り組みの中心的な役割を担ってくださった丸善木材さんから朝,20名ほどの方と一緒にバスに乗りこみました.途中,弟子屈中学校に立ち寄り,道産材普及の事業で天板をから松の集成材にした机を見学したのち,美留和の現場に向かいました.雪解けのこの時期,あいにく敷地内は足下が悪い状態でしたが,釧路管内各地から50名ほどの方々が集まるにぎやかな見学会となりました.
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一軒の家を建てるには様々なそしてたくさんの木材を適材適所に使用します.今回は出来るだけ道産材を使おうということで,柱や梁,胴差といった主要な構造材に地場産のから松を使いました.105㎜角の柱についてはすべて無垢材のから松です.梁については梁せい(梁の高さ)が150㎜以下のものについては無垢材のから松で,それ以上のものは集成材のから松としました.また,間柱や筋交い,屋根の野地板等もから松の製材です.その他に床の根太や天井下地の野縁,壁下地の小幅板,外壁の仕上げである下見板にはとど松・えぞ松の道産材を使っています.ただし,すべてが道産材ではなく,土台は防腐剤を加圧注入したカナダ産の米つがですし,屋根の垂木もツーバイ材のカナダ産スプルスという木を使っています.
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当日配られた使用木材の明細についての資料によると,これら使用木材の合計の材積が22.5立方メートルで,その内,道産材が17.2立方メートルなので,道産材の使用比率は76.3%あまりとなります.実際にはこの他に外部のデッキテラスに使用する材料(カナダ産のツーバイ材),階段の踏み板,開口部の額縁,内部仕上げの合板(道産材のから松)などにも木材を使用しますので,全体での正確な道産材の割合は多少前後すると思われますが,おおむね過半の材料を道産材でまかなっているということは間違いありません.この比率をどう見るかということですが,平成17年度の「森林・林業白書」によると平成16年の用材使用率(国産材の使用率)が18.4%なので,相当高い数字と言えると思います.もちろん,木材は建築資材としてだけではなく他用途に使われているので,建築資材としての国産材の使用率がいくらなのかはわからないのですが,それにしても18.4%という数字はいかに木材の供給を海外に頼っているかということの証だと思います.ちなみに国内自給率でいつも話題になる食料についてはここ数年40%(カロリーベース)となっています.
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「トレーサビリティー」という言葉がありますが,狂牛病などに端を発して主に食品の安全性に関連して使われています.一般で売られる商品が流通の過程でどのように流れているのか,小売りの末端から生産者までたどれることが可能なことをいいます.実際,スーパーで食品を買おうとすると,生産地が表示されているのは当たり前になりましたし,私がときどきいく焼き肉のお店でも入り口の黒板にどこの部位の肉はどこから仕入れたかが表示してあります.木材についてもどこの山でとれた木材なのか表示しようという流れが強まっています.この場合,食品と違って安全性というよりも違法伐採をくい止めようということ,出来るだけ地元の材料を消費しようといった環境問題を意識した意味合いが強いようです.裏を返すと木材はこれまで違法伐採されていたものが多く流通していたということを意味します.実際去年の一時期,コンクリートの打設などに使われるラワンを原材料とした合板(通称コンパネ)が品薄になった時期がありました.環境保護団体の働きかけにより,ラワンの生産地であるフィリピンやインドネシアで違法な生産者が取り締まりを受けたことが原因とされています.
こうした違法伐採による木材を排除すること,できるだけ地場産の木材を使うということの流れは今後も強まっていくのだと思います.ただし,から松の流通に関してはまだまだ問題も多く残っています.建築資材として使用するには含水率を下げた乾燥材にしなければなりませんが,高温での人工乾燥には多くの化石燃料が必要で二酸化炭素の発生を伴います.自然乾燥も併用したさらなる乾燥技術が望まれます.また同時に一般に流通するためには価格を抑えること,量産できるための施設をととのえることも必要です.
ことは環境や地域振興の問題であるだけに,行政の後押しも受けながら取り組んでいかなければならないことだと思います.なお,北海道では北の木の家という認定制度により一定量道産材の木材を使うと低利で融資が受けられる制度も始まりました.
今回のテーマは私にとっても重たいものだったので見学会の終了からこのコラムを書き上げるまでに時間がかかってしまいました.しかし,住宅の設計に関わっている以上,木材についてはいつも考えていかなければならないことなので,また折に触れて取り上げたいと思います.

2007年04月04日

高齢者の住まい

月曜塾の仲間であるT設計のIさんからご自身が現場を担当した特別養護老人ホーム「さくらの里」の完成内覧会の案内があったので見学に行ってきました.いわゆる「新型特別養護老人ホーム(新型特養)」といわれる施設です.
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その特徴は全室個室でそれが10部屋がひとまとまりになっていて食堂等を共有する,ユニットケアという小規模な生活単位で構成されていることです.それまでの「新型」ではない特別養護老人ホームは,2人部屋・3人部屋といった多床室で,さらに大食堂が一ヶ所というのが主流でした.ユニットケアという方式は認知症の人が対象のグループホームで一般的なので,ご存じの方も多いとおもいます.

見学にいって最初に驚いたのはその規模の大きさでした.あとで調べてみると「新型特養」の基準は定員50人以上,つまり1ユニット10人が5つ以上という規定があるのでそれなりの大きさになります.「さくらの里」ではさらにショートステイのユニットがひとつあるので合計60人の定員です.また,個室も10帖ほどの広さがあり,とても余裕を感じました.というのも,いわゆる一般的なグループホームの個室はぎりぎり6帖大のところがほとんどなので,それに比べるととても広く感じます.特養に入る人はほとんどが車椅子での生活か寝たきりの状態といった介護の必要性の高い人が優先されるのにたいして,グループホームにいる人は認知症とはいえ身体の運動能力は活発で,認知症の程度もさまざまですから,小さな部屋にいるのがお気の毒に感じることがあります.
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「さくらの里」ではお風呂の設備が目を引きました.高齢者の介護のうち,介護する立場からして重労働のひとつなのが入浴の介護でしょう.でも,お風呂に入って心身共にさっぱりしたいという思いは,誰もが思うとても大切なことだと思います.介護する人が楽に作業できて入所者だけでなくショートステイの人も不便なく入浴できる設備が整っているのは,これからの高齢者福祉施設にはとても重要だと思います.
人は必ず老いていきます.住まいの設計に携わる者として,加齢にともなう身体能力の変化にどう対応するか,介護が必要になったときにどうするかといったことはいつも考えています.難しいのはこうしておけば大丈夫という一般解が無く,その人その家にあった方策を考えなければいけないことです.高齢者に対応した住まいについては,自分自身のことも含めさらに研鑽を続けていかなければと考えています.