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暖房のランニングコスト

 ここ数年私が設計してきた住宅は,深夜電力を利用した蓄熱式の暖房ばかりでした.場合によって補助的に融雪電力を使ったり,あるいはオーナーさんの意向でペレットストーブや薪ストーブを併設することもありましたが,メインの暖房は深夜電力でした.それというのもランニングコストが灯油など他の熱源に比べて安かったからです.

 しかし,東日本大震災とそれにともなう福島第一原発事故後のエネルギー事情の変化から,北海道でも電気代は平成25年10月,大幅に値上がりしました.オール電化住宅にお住まいの方はこの冬の電気代の値上がりを痛感されていることでしょう.

 また一方で灯油の方もここ数年高値が続き,この冬はいっそう値上がりしています.ここ道東では配達価格が1リットルあたり110円になろうとしています.灯油で暖房している方々もこの冬は厳しさを感じていることと思います.こんな状況で,これからの住宅は何を熱源にしたらいいのか,とても悩ましい状況です.

 今年,これから弟子屈町に建設予定の住宅は暖房の熱源に温泉を利用します.弟子屈町周辺は温泉資源の豊富なところで,この建設地の温泉源は浴用として15戸ほどに温泉を供給していますが,それでも余るほどの量があるので,それを利用することになりました.自然再生可能エネルギーの一種である温泉熱による暖房です.

 今回は,もし温泉熱が利用できない場合,灯油や深夜電力ならどれくらいランニングコストがかかるのか計算してみようと思いました.

 モデルとする住宅は弟子屈町に建設する木造平屋建て,延べ床面積は115㎡(35坪),熱損失係数(Q値)は1.37[W/㎡・K]です.

 計算方法の概略は以下の通りです.

 まず,暖房以外に室内で発生する熱量(室内取得熱)を算出します.これには日射取得熱と室内発生熱があります.日射取得熱は窓から入ってくる日射によって得られる熱で,方位ごとの窓の大きさと,建設地域別にどれだけ冬期間日射があるかによる係数から算出します.室内発生熱は家電製品や調理機器,あるいは中で居住する人から発生する熱で,単位面積あたりの熱量に床面積を乗じて算出します.

 この室内取得熱から住宅の断熱性能である熱損失係数を勘案して,室温として得られる温度差(この差を自然温度差といいます)を算出します.

 暖房が必要な時期,目標とする室内の温度(暖房設定温度)に対して外気温は当然低いわけですが,自然温度差を差し引いてさらに足りない部分が暖房に必要な熱量になります.この熱量を一年を通して積算します.

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 グラフの青い線が一年間の平均気温の推移です.一番上の緑の線が暖房設定温度でここでは22℃としています.自然温度差は8℃なのでこれを差し引いて,それでも足りないオレンジ部分の熱量が暖房に必要な熱量となり,年間のその積算値を暖房度日数といいます.

 最後に暖房度日数を得るための灯油の消費量を計算します.ここでは灯油のボイラーを使用することとして,暖房システム効率を考慮し灯油の発熱量から必要量を算出します.

 今回の計算の結果は以下の通りです.

画像2.jpg

 灯油のボイラーで暖房した場合,1年間で1,527リットルの灯油が必要で,金額にすると16~17万円ほどかかることがわかります.決して少なくない金額です.

 当然のことですが,寒冷地では水道光熱費のうち暖房費の占める割合が高くなってきます.暖房のランニングコストを削減するためには,断熱性能を高めることが必要になりますが,それはそれでイニシャルコストがかかります.そうしたコストのバランスを設計段階で十分検討することが必要だと思います.

 また,この道東では豊富な温泉資源や地熱を利用した住宅も,これからますます必要になってくると考えています.

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